うちでオスの子牛が生まれると まるでお肉が生まれたようなものですから おしりをさわって わー、この子おいしそう とか平気で言えます。でもメスの場合は 長く付き合うつもりなので まるでうちの子のようになってしまいます。今まで どうしても種が付かなかったメスを3頭お肉にしました。かわいそうだとは思ったけど たまたま あまり性格の良くない子ばかりだったので《お肉の方が好き》ですませることができました。
でも、バルダは別です。小柄な“たま”の最初の子だったので 生まれた時からちっちゃな子牛でした。巻き毛がくるくるで 見た目もかわいかったのですが 性格も本当にかわいい子でした。ちょっとピンぼけですが 生まれて数日の時の 私が一番好きな写真です。

去年の冬 初めてシュパを生んだバルダ。肝心な時に座ってしまい しっかりいきむことをしなかったので Jが子牛の脚を引っぱってやっと生まれました。でも きっと二度目にはちゃんと産めたはずです。なのに なぜ繁殖させないか と言うと バルダは小さくて 顔も形もアルモリカン牛には似ても似つかないからです。
搾乳できるおとなしい牛が欲しい人なら バルダをかわいがってくれただろうと思います。でも、書類上純粋なアルモリカン種 とされているのに似ても似つかないのでは まるで詐欺です。なので、うちでは去勢たちの数が足らないこともあって バルダをお肉にすることを決め、人工授精もしませんでした。なので今さら 予定変更は不可能です。
と言うことで とうとう業者さんに電話して日にちを決めたのは 先週のことでした。お客様へのご案内に こんな絵が入ったカードも もう送りました。

バルダがトラックに乗って行ったのは 今朝のことでした。バルダは 昨日の夜から牛舎に残しました。ひとりでは不安だろうと イッジーばあちゃんがお付き合いです。みんなが外に行ってしまったので しばらく泣いていましたが 雨が降っていたので 牛舎も悪くない とわかったのでしょう。そのうち泣き止んで 夜はぐっすり寝てくれました。
朝 私が見に行くと バルダがしきりにビートの入ったバケツを指して催促したので 食べたいだけ食べさせました。そうすると イッジーばあちゃんがムームー抗議したので そっちにも投げてやりました。その後 バルダにブラシをかけてやると ぴかぴかの牛になりました。
時間になったのにトラック来ないなー と思っていると 電話が鳴りました。業者さんからで 45分ほど遅れる と言うことでした。よそでまたトラブっているようです。ようやくトラックが着いた時 そのトラブルの種がすぐにわかりました。トラックの中で バカでかい牛が怒り狂っていました。ろくに人間を見たこともない野生の牛は 群から離されトラックに乗せられると パニック状態になります。
トラックの中は4つに仕切られていて すでに3頭の牛が乗っていました。やたら暴れているのが 前から3頭目の牛です。運転手さんは なんとその牛を押さえている仕切りを開けて そこにバルダを入れようとするのです。私はあわてて その気ちがい牛といっしょだったら バルダは渡さない と言いました。お肉販売の予定が狂っても 絶対に行かせない覚悟でした。
運転手さんは困ってしまいました。だいたい、4つに仕切ってあるトラックに5頭乗せよう というのがおかしいのですが、それは運転手さんの責任ではありません。結局、気休めかも知れませんが、バルダの後の最後の牛が《牝牛》ということで、バルダはその牛と乗るように 一番うしろに入れてもらいました。
それにしても ベルトコンベヤ式大量生産の気ちがい牛やそのシステムを目の当たりにして あまりの憤りに うちで大事に育てた牛が行ってしまう悲しさも 吹っ飛んでしまいました。
こちらの農業は ヨーロッパの助成金が年に一頭につき、一ヘクタールにつき なんぼ がベースです。繁殖用の牝牛を上限の80頭(だったと思う)まで飼って 土地(野原)をふんだんに使って 人間と接することのない野生の牛を大量に生産します。牛は 大きなおしりの肉専用種でないと高く売れないので どの地方に行っても同じ種類ばかりになってしまいましたが 一般に出回っている牛肉は 信じられないほどまずいです。
さて、うちのJおじさんですが 今日も《今度から野菜生産に転業しよう。》と言っていました。
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