牧草地にいる子牛たち、ベラとカシューは雨にも風にも負けず元気です。牛舎までの道のり,ちゃんとみんな付いて来られるか少し心配だったのですが,どうにか迷子にならずにすんでいます。ベラは お母さん,ユーチカがちゃんとめんどうを見るので良いのですが,カシューは ひとりでどこへでも行ってしまうので困ります。ちゃんと牛舎の入り口まで来るのですが,すんなり中に入ってくれないのです。今朝は みんなをつないだら呼びに行こう と放っておいたら,なんと牛舎の反対側の入り口からトコトコ入って来ました。(図の中、赤線で描いたルートを通って。)この歳でこれだから,先が思いやられます。
さて,本題に入ります。
ボラン農場には秘密があります。なぜ,電気の通ったワイヤ一本で 牛や馬を食い止めることができるのか。もう一度ボラン農場案内図をご覧ください。
グリーンの丸は 木のつもりなのですが,それぞれの区画が土手で囲ってあります。ボラン農場の写真に必ず写る《土手》です。この土手のおかげで こんな斜面でも生きて行ける 大事な土手です。図を見ていただければお解りになると思いますが,ワイヤ一本の柵は 土手のすぐ前を通っているので,ワイヤに触れず くぐることは不可能です。飛び越えるのも無理です。それに土手の向こう側はよく見えませんから,向うに行こうという気にもなりません。

でも,土手の偉力はそれだけではありません。ここは 風が強いのですが、土手とその上に植わった木が 風をさえぎってくれます。暑い夏には,木陰ができます。土手の前には溝が掘ってあるので,大雨が降っても 水はゆっくり斜面を下りて行きます。こういう、すごいシステムが ボラン農場にはあるのです。聞くところによると,この地方(ブルターニュと言います)の土手建設大工事は 中世(12世紀)に始まったらしいのです。(そのへんの歴史を知りたいのですが,文献が見つかりません。)考えてみてください。まだ,ブルドーザーもトラクターも無かった時代です。土地を守るために たくさんの人達が協力して 手で作ったものです。ここは 岩の上に乗っかっていて,土はその上にかぶっているだけのやせた土地なのに。それほど,土地は貴重なものだったのでしょうか。
ということで,ここはあくまで昔風の農家なのです。トラクターよりも馬の方が似合う農場です。母牛は8頭までしか飼えない小さな農場です。うちの4頭の去勢雄牛がいる《羊飼いのジョンさんち》は たしかに《牧場》です。全部で何ヘクタールあるのか知りませんが,ジョンさんの家から牧場が見渡せます。ほとんど平地ですから 土手はもうありません。トラクターが導入された時代に壊してしまったのです。当時,トラクターが溝に落ちる事故がよくあったので,安全のためと もちろん、生産性向上のためです。私たちにしたら効率は悪くても,昔風の農場がお気に入りです。昔の人たちがつくったエコロジーシステムなんて,すごーいと思います。
私たちがここに来たばかりのころ、私たちの前にここを使っていた 今は亡きアルセーヌおじさんに聞いたことがあります。アルセーヌおじさんは 私たちのお師匠さんでした。《なんで,こんな斜面のやせた土地に 手間かけて土手なんか作ったんやろか。》アルセーヌおじさん曰く《隣の家との境界線に柵を作っても,ごまかそうと思えば,一晩で移動できるやろ。でも,木の植わった土手は動かされへん。》これが土地の人たちの考え方です。