
恥ずかしながら、ボラン農場産アルモリカン牛の写真です。食べるのは私たちなので、並のステーキを解凍しました。フィレだとか、サーロインステーキだとか高級なところは お客様用に取っておきます。辞書で調べたのですが、これは肩の部分だそうです。真ん中に入っているのはスジではなくて ゼラチン質です。これは32ヵ月の牝牛(ビタミン)なので いつもの《最低36ヵ月の去勢牛》に比べて サシが少なめで 色もうすい方です。
ところが フランスの消費者にしたら、サシはこれが限度なんです。うちのお得意さんたちは こうでないとおいしくないのを納得してくださっていますが、一般の人は違います。肉はあくまでも赤身というイメージなので、サシが入ると《うわー、気持ちワルーい。》となります。9月に 4才を過ぎた去勢牛を販売した時は、今回よりも若干サシが多かったのですが、初めて買いに来てくださったお客様が 商品を見てしかめっ面なさいました。
このあたりは田舎なので、お肉屋さんはありません。お肉は スーパーで買うことになります。スーパーだけで見ると、一番多いのは、ホルスタインです。酪農が盛んなのと、乳牛は4才になるとそろそろ引退するため、かなりの量の肉が出まわっています。一回の泌乳サイクルで 1万リットル近く生産する牛です。まだ若いわりには、肉はかたくておいしくありません。
もっとおいしいお肉を食べたい となると、肉専用種です。有名なシャロレがそうです。それに、リムザンとブロン・ダキテーヌが フランスの三大肉牛です。どれも赤身のお肉です。本を読むとシャロレは霜降り(ほどではないはず)とか書いてありますが、私たちがお目にかかるシャロレのお肉は 真っ赤です。シャロレの原産地に住んでいる友達が スーパーの肉売り場で働いているのですが、シャロレはおいしくない と言っていました。
では、なぜフランス三大肉牛なのか と言うと、どうも生産性の話らしいです。どれも もともと体格が大きくて、子牛の成長も速いので、若いうち(18ヵ月)にお肉にできます。また、お尻の肉付きが良くて、枝肉/精肉(日本とは切り方が違いますが)の歩留りは 少なくとも60パーセントです。それに、余分な脂身が付かないので、切り分ける作業が短い時間でできます。業界にしたら、理想のお肉です。シャロレ、リムザン、ブロン・ダキテーヌだったら、市場でも高い値段が付くので、生産者はだんだんそれ以外の種類や雑種は飼わなくなります。こうして、赤身だけのお肉が 主流になったのだと思います。
数ヶ月前、近くの村で学芸会みたいな催しがあって、アルモリカン牛保護の闘いの話をしてくれと Jが招かれました。その時、例の《うわー、気持ちワルーい。》のお肉を 試食のために持って行きました。うちのオーブントースターにやっと入った 1キロ近いローストビーフです。肩ロースだったので、ミニ霜降り程度のサシが入っていました。その冷たくなったのを薄切りにして お客様に食べてもらったのですが、評判はとても良かったです。サシは もちろん調理すると 融けてなくなってしまいます。また、そのおかげで 赤身がしっとりするのです。そう言えば みんなわかってくれるのですが、実際にサシが入ったお肉を見てしまうと、ダメみたいです。
いつも思うのですが、普通の枝肉よりずっと手間のかかる うちのアルモリカン牛を いやな顔もせず引き受けてくださる業者さんがいて ありがたいことです。冷蔵庫での熟成期間は 普通より1週間長い15日で、切り分ける時には ちゃんと余分な脂肪を取り除いてもらって、見栄えの良い仕上げにしてもらっています。私たちも あまりひどいものを持って行って、もうアルモリカンはこりごり と言われないように、気をつけないといけません。
アルモリカン牛は 何を食べても太る牛です。牧草だけでもデブになります。T村には その昔、アルモリカン種雄牛を持っていた たいそう大きな農家があったそうです。種雄牛は 農家の誇りですから、しっかり世話をし、食べ物は充分与えます。ある日 地方の大きな品評会に参加するため その雄牛を牛舎から出そうとしたら、大きくなり過ぎて出られなかったそうです。しょうがないので、壁を壊して出した というのが 今でも語りぐさになっています。そういう素質のある牛ですから、脂肪太りにならないように うちでは 濃厚飼料はおろか、大麦も与えません。冬も乾草だけです。メスだけは 冬に子牛を産むので、おやつにビートを切ったのを与えます。餌が大変安上がりな牛です。
さて、写真のお肉なのですが、テフロン加工のフライパンで、バターもオイルも使わずに焼いて、塩・コショウしていただきました。Jは ナイフを入れて『おぉーっ、柔らかーい。』、お肉を口に入れて『うーん、おっいし~い。』と椅子から飛び上がりました。いつも食べてるくせに。アルモリカン牛は 黒毛和牛の足下にも及びません。でも、うちはうち。これで良いんだ という気持ちになりました。