ボラン農場の牛たち

アルモリカの小さな村からアルモリカンArmoricaine牛たちのお話をお届けします。

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牛は理由なく鳴いたりしない - その1

これは 一昨日,3日の夜のことです。11時になり、それまで聞いていたラジオ番組が終り,ベッドに入いって Jおじさんは本を読み始めました。するとすぐ 放牧地から母牛の叫び声が聞こえました。牛たちは 相変わらず小屋のすぐ横の放牧地です。それがひと声、ふた声 と何度も続くので Jおじさんが見に行くことにしました。

作業着に着替えながら Jおじさんが『また隣の牛やなかったらええけど。』と言うので 私も心配になって ついて行くことにしました。もしも 牛の群れがいた時のことを考えて オスカルも連れて行きました。

私たちが放牧地の入口まで来た時は 母牛一頭だけではなく 数頭の叫び声が聞こえました。牛たちは 小屋とは反対の村道側にいました。きっと,よその牛か うちの子牛が道を歩いているんだ と思い、放牧地には入らず、並木道を通って道に出て行きました。

ところが,道には牛も子牛も見当たりません。でも,牛たちは柵のすぐ後ろに集まっています。私のよりずっと明るい懐中電灯を持っているJおじさんが『あっ!』と声を上げ,道の脇の溝をまたぎ,柵を飛び越えて(電気は来る前に切ってあった)放牧地に入って行きました。

どうも子牛が一頭大変なことになっている としかわからなかったですが 私は とりあえず 足手まといのオスカルを 小屋まで連れて帰りました。オスカルを小屋の入口につないだ後 今度は放牧地を横切って Jおじさんの懐中電灯の灯りを目指して進んで行きました。

Jおじさんはさっきのまま 子牛の横にしゃがんで 子牛に話しかけたり、体をさすったりしていました。子牛はエバンでした。エバンは 道側の電気牧柵すぐ横にあるリンゴの木を囲っていたワイヤの上に横になっていました。リンゴの木は 放牧地の中にあって 牛たちが体を掻くのに格好な道具にされるので 囲って電気を通してあったのです。

Jおじさんは はじめ ワイヤが巻き付いて起き上がれなくなった と思い,急いで外そうとしたのですが、エバンは ただ電気の通ったワイヤの上に寝ていただけでした。牛の声が聞こえて間もなく電源を切ったけれど それまで電気ショックを受けていたわけです。なんで 起き上がられなかったか わけがわからないまま とにかくショックでハアハア言っているエバンが 落ち着いて立ち上がるのを 牛たちといっしょに見守っていました。

そのうち 何かの拍子に エバンが急いで立ち上がろうとしました。なかなかエバンの足もとがおぼつかず 頼りなかったのですが 少し助けてやると 立ち上がることができて 母親のユーチカのもとにフラフラ歩いて行きました。見たところ けがはないようだし おっぱいを飲んでいるようだったので 私は やれやれ,一件落着 と小屋に戻ることにしました。Jおじさんは 念のためもう少し様子を見ていました。

しばらくして戻って来たJおじさんは もうひとつエバンの様子がおかしいので 今晩は ユーチカと牛舎に泊めようか と言い出しました。でも,牛舎は 夜の8時に牛たちが放牧地に出て行った時のままで 掃除をしていません。その上 ユーチカは 群れを離れて単独行動ができる牛ではありませんから エバンとユーチカを牛舎に入れるには 全員を連れて来ないといけません。それに みんなといっしょに とは言っても 牛たちは暗くなって牛舎に来る習慣はないので そううまく行くとは思えません。

本当は エバンとユーチカをすぐにでも牛舎に入れて エバンの症状に応じたレメディを飲ませたいのですが それまでの段取りがあまりにも複雑過ぎます。どうしたら良いのか決心が付かないので Jおじさんがもう一度エバンの様子を見に行って それによって決めることにしました。

答えは 牛舎に入れよう でした。一度は立ち上がれたエバンですが 今度は土手と牧柵の間に入りこんでうずくまり,呼吸も異常に速いままでした。

まず,大急ぎで牛舎の掃除をして 新しいわらを敷き、乾草も各自の場所に少しずつ入れました。次に いったいどうすれば良いのかわからないまま エバンがさっきいた場所まで行きました。はじめは他の牛たちと少し離れた所にいたユーチカも 私たちを見て心配になったのか エバンの近くまでやって来ました。

土手を背にしてうずくまっていたエバンを起こして,ゆっくり牛舎の方向に歩かせようとしました。意外にも エバンはしっかりした足取りで歩くのですが そのうち母親を追い始め 他の牛たちといっしょに牛舎からどんどん離れて行きました。

これではらちが明かない とJおじさんは 牛舎までロープを取りに行きました。そして,エバンの首にロープをかけて 誘導しようとすると エバンはいやがって 全力で抵抗しました。こんなことをしていては かえって疲れさせてしまう とすぐにロープを外し,もう一度 私たちがそれぞれエバンの左右に付いて 牛舎への出口に向って歩かせようとしました。

その後のことを考えると《奇跡》という言葉しか思いつきません。エバンは 私たちにエスコートされて まるで 私たちが何をしようとしているのか、そして それが自分のためになることを理解したかのように まっすぐ,迷うことなく 牛舎に続く出口に向って歩いてくれました。放牧地を出て,牛舎横のパドックに入るところで ふと後ろを見ると ユーチカがいました。他の牛たちは だれも付いて来ませんでした。

こうして,エバンとユーチカだけ牛舎に入れることができたのですが 奇跡はここで終りでした。牛舎に入るなり エバンは倒れて、苦しみ始めました。もうその頃は 夜中の2時を回っていて 獣医さんを呼ぶべきかどうか 迷いました。

ふつう 子牛の病気ぐらいで 夜中に獣医さんをたたき起して来てもらう人などいません。それだけの価値が子牛にはないからです。また,決心の付かないまま Jおじさんと小屋でぼんやりしていたのですが 朝になるまで様子を見るにしても 心配で 眠るどころか、じっとしていられません。

そうしているうちに エバンは大声を上げてもがき出しました。見ていてあまりにもかわいそうなので 獣医さんには気の毒だけど 電話して来てもらうことにしました。幸い その日の当直は 若いL先生だったので すぐに来る と言ってくださいました。それから 先生が到着するまでの30分は 本当に長く感じました。エバンはますます苦しそうで 大きく口を開けて舌を出し ハアハアあえぎながらやっと呼吸している状態でした。

3時過ぎに先生が到着して,熱を測り,聴診器を当ている間、エバンは 横になったままもがき続けました。注射を3本してもらって、先生が牛舎前に停めてあった車の中で処方箋を書いていた時、ふと エバンがもがくのを止めたのに気が付きました。私が『あれっ,エバン 動くの止めた。』と言うと Jおじさんは顔色を変えて 牛舎に飛び込みました。

エバンは もう苦しむことなど何にもない天国に行ってしまいました。(つづく)

Eben 1
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