(左がエバン。ふじお、バランチーヌ親子と。これが一番最近の写真。)

それが なぜ3時間後に 電気牧柵の上に倒れて動けなくなったのか 私たちには全く理解できませんでした。はじめ、電流を受け続けたショックで ハアハア言っているのだ と思ったけれど、びっくりして逃げなかったのは どう考えても異常です。
獣医のL先生に死因をたずねたのですが 可能性はいくつもあって特定できませんでした。ただ,熱は41℃あったけれど 呼吸は正常だったので 呼吸器系の病気ではなく,脳神経に異常が起きたとしか考えられませんでした。それに あのもがき方は 脳皮質損傷の典型的な症状だそうです。
死因がはっきりわからず 私たちは 同じことが他の子牛にも起らないか不安でした。Jおじさんといろいろ考えたのですが エバンは 下痢が多かったし,1ヵ月の時 シラミが付いたのか背中の線に沿って毛が抜けたり 他の子牛に比べて抵抗力が弱かったような気がします。これも みんなエバンの両親の近親関係のせいかも知れません。本来なら 母と息子 というあってはならない組み合わせなのですが、特に支障はない と聞いて そのままにしてしまいました。もしも それが エバンの急死の要因になっているとしたら 生まれて来てはいけない子牛を産ませた私たちの責任です。
さて,昨日 Jおじさんが羊飼いのジョンさんと話をしていて どうやら謎が解けたようです。ジョンさんも羊(子羊)で経験している病気で 今まで元気だった子羊が急に横向きに倒れ、歯をガタガタ言わせ,あっという間に死んでしまう とエバンの場合と全く同じです。日本語で 脳膜炎 と言うのか 髄膜炎 と言うのかわからないのですが(とみさん、ご存知でしょうか?)、脳の炎症で 体には異常がないので 子羊にこの症状が出ると 死ぬ前に急いでお肉にしてしまうそうです。
私たちには高い授業料だったけれど この病気の発病直後から最後まで 一部始終見ることができて 新しい知識が得られました。今まで 子牛は一度生まれると必ず大人に成長する と思い込んでいた私たちは 無知な牛飼いでした。エバンの耳標番号が4071で 途中でシステムが変わって欠番があるので うちで生まれた子牛の数は60数頭でしょうか。その内の一頭が死んでしまったからって 特別なことではない と受けとめることにしました。
エバンは もう二度と苦しむこともなく,遺体も金曜日に回収され、私たちもエバンがいたことをだんだん忘れて行くのだ と思いますが、どうしてもエバンのことが忘れられないのが・・・そう母親のユーチカです。
エバンが牛舎で苦しんでいた間,知らない人(獣医さん)が来た時は警戒したものの、ユーチカは知らん顔して 無心に乾草を食べていました。朝になるまでエバンの遺体を移動しなかったので ユーチカは 息子は死んだとは知らず 横で寝ていました。でも,朝になっても エバンがいっこうにおっぱいを飲みに来ないものだから 不安そうにムームー言い出しました。
その後,とうとうエバンが見えなくなると ユーチカはそれはそれは大きな声で叫び始めました。休みなしに叫び続けるものだから そのうちに声もかれ、それでも止めず まるで雄牛のようなドスの利いた声で一日中泣き叫びました。
きっと,おっぱいが張ってよけいつらいんだろう とあれから毎日 Jおじさんが搾乳しようとするのですが 二回に一回は拒否で,後ろ足が出てきます。ユーチカは 乳量が多いので このままにしておくと必ず乳房炎になりそうです。そのために しばらくは搾乳したいのですが 本人の協力が得られなければ どうしようもありません。
でも,一昨日は ある程度ミルクが搾れて(甘くておいしかった)おっぱいが楽になったはずなのに 相変わらずエバンを探して 泣き続けました。ユーチカにしたら おっぱいが問題なのではなく かわいい子供がいなくなったのが悲しいんだ とわかりました。
今日はもう4日目だから ユーチカの絶叫もたまに休みが入ります。ユーチカの声はよく覚えたので、『もう,泣きたいだけ泣いて。』と気にしませんが もしも 他の牛の声がしたら すぐに見に行くようにしています。牛は理由もなしに鳴いたりしませんから。