少し前の話に戻りますが、一年生雄牛2頭が ジョンさんちの牧場に行ってしまった日の夕方、ブルータス君のお母さん、イッジーばあちゃんは 我が子がいなくなったのに気付いて 泣き出しました。イッジーばあちゃんは みんなと新しい牧草地に行ったのに ブルータス君を探しに 牧草地の入り口まで来て、牛舎を向いて ずーっと叫んでいました。あの子 もう11ヵ月よぉ なんて言っても本人は納得しません。ブルータスは その日の朝まで おっぱいを飲みに来ていたのですから。草をお腹いっぱい食べたせいで イッジーばあちゃんのおっぱいが張って来たのでしょう。でも、11ヵ月目のミルクなんて 水っぽくておいしくないので 搾ってやらずに放っておきました。

次の日も イッジーばあちゃんは 泣いていました。私は 朝のうち何回か牛たちを見に行ったのですが、イッジーばあちゃんは どうしても私といっしょに牛舎に行きたいようでした。私が 帰ろうとすると 後ろからついて来ました。イッジーばあちゃんは もう数年前からリューマチか何かで足首が痛いみたいで、歩き方がゆっくりです。最年長でみんなのリーダーだから 牧草地から牛舎に来る時は いつも先頭なのですが 道中 みんなに追い越されてしまいます。その遅さと言ったら、今にも止まりそうなスローモーションです。
イッジーぱあちゃんが後からついて来た時 私は少し早めに歩きました。私が牧草地を出る時 いっしょに来てしまわないように 電気の通ったワイヤで脅すようなことは したくなかったのです。ところが ばあちゃん、私にしっかりついて来るではありませんか。そのスピードに あんた、そんなに速く歩けたの とびっくりです。

その日も イッジーばあちゃんは 牛舎を向いて一日中泣いていました。後でJに聞いたのですが、ジョンさんちに去勢牛たちの様子を見に行ったら、ブルータス君は 正確にボラン農場の方向を向いて泣いていたそうです。ジョンさんちとボラン農場は 直線距離だとそれほど離れていません。間に丘はあっても 牛たちの叫び声は聞こえます。ブルータス君には お母さんの声が聞こえていたようです。ところが お母さんの方は 耳が遠いのか いっしょうけんめい牛舎を見ていたのです。
それもどうにかおさまった次の日、イッジーばあちゃんは 発情してくれました。ブルータスを産んでもう1年近く、春になっても発情しないので、ホルモン治療するべきか 迷っていた矢先です。それが 自然に発情して、受精師のフィリップさんが来てくれた時は ちょうど良いタイミングだった と言うことで もう最高です。

イッジーばあちゃん、14才どころか20才でもお産する牛がいるそうだから、まだまだがんばってよ。来年 また子牛が生まれたら 思いっきりかわいがってやってね。