
これは食堂のドアが開くのを並んで待っている一年生たちです。待ちぼうけはこの子たちではなく ユゴリンのお産を待っている私たちです。
ふつううちでは牛のお産に2つのパターンがあります。
パターン1 - 朝(べつにいつでも良い)牛を見に牧草地に行ったら,牛の横に茶色いものが落ちている。良く見たら,生まれたばかりの子牛。
パターン2 - 牧草地に行って、牛の数を数えてみたら,一頭多い。良く見たら,生まれたばかりの子牛がかけまわっている。
去年はユーチカとたまが 真っ昼間、食堂でごはんを食べているうちに産気づいて、あわてて外に出した ということがありましたが(お産のときは歩きまわるので)一時間もしないうちに無事に生まれていました。要するに,いつも超安産なのです。
ところが、50回もお産があると、例外が出てきます。去年のユゴリンがそうでした。もう,予定日をとっくに過ぎているにお腹が下がってこず,全くお産の前兆がなかったので,油断しすぎました。朝,偶然 牛たちのいる牧草地の方へ行ったら,牛が一頭泣いているではありませんか。まさかと思って牛のいるところまで下りて行ったら,やっぱりユゴリンでした。ひとりぼっちで、一番下の土手ぞい、木の下で泣いていました。おしりを見ると子牛の蹄らしきものが。気を落ち着けて,正常に頭から出てきているのか,逆子か考えました。蹄の底が下を向いているのは前足で、正常です。それを確認して,Jに知らせに走りました。Jは 逆子ではないからそのうち自然に生まれるだろうと言うのですが、私は心配なので、ユゴリンに付いておくことにしました。ユゴリンは土手沿いを歩きながら,陣痛が強くなると座って(横になって)息んで,少し楽になると立ち上がることを繰り返しました。息むたびに大声で泣くので、かわいそうでたまりませんでした。今まで私が見たお産の瞬間は いつも母牛が立った状態だったので,ユゴリンが横になった時にしか息まないのが不思議でした。そのうち陣痛がひどくなり、子牛の前脚が全部で出て鼻の先まで見えるのに どうしても目のところでつかえてしまいます。ユゴリンはすごい声をあげるし,こりゃアカン と思いました。いったいいつからお産がはじまったのかもわかりません。その時はまだ子牛は息をしていました。私はJを呼びに行きました。牛飼いとしておはずかしいのですが,それまで一度も難産に立ち会ったことがないので,子牛の引っぱり方など知りません。私の大切な教科書《子とり和牛上手な飼い方育て方》という本に書いてあるのですが,獣医さんに来てもらうのが無難だろう ということになりました。ありがたいことに,獣医さんは30分もしないうちに来てくれました。ロープを用意して,Jといっしょユゴリンのところへ。私は怖くて行けませんでした。子牛は引っぱると難なく出てきたそうです。でも,手遅れで息を吹き返しませんでした。ごめんね,ユゴリン。私たちが無知なせいで子牛を死なせてしまって。その子牛はアリスと名付けるつもりでした。死んだ子牛はやっばり牝牛でした。それに、その日は12月16日聖アリスの日でした。
ユゴリン,今年は安心して大丈夫だよ。獣医さんに教えてもらったから。ロープも2本用意してあるし。
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